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コラム・弁護士

 
   

むち打ち症のこれから

張 學錬
(チャン ハンニョン)

2006年3月

弁護士 ・ 張 學錬 むち打ち症という疾患は、交通事故の際の怪我の代名詞と言っていいほど広く知られた怪我であり、誰でも身近な人(あるいは自分自身)がその被害を受けていると思ってよいのではないだろうか。むち打ち症は、医療現場では(脊柱管狭窄などの客観的所見のない限り)頸椎捻挫などの呼び名をつけられることが殆どであり、せいぜい加療数週間ということで診断書が作成される。そして、治療と言っても殆どやることはなく、湿布を貼ったり首を牽引したりという気休め的な治療が行われている。
  しかし、実際のむち打ち症の症状は実に多彩であり、かつ、場合によっては仕事どころか日常生活さえできなくなるほどの重い症状が現れることが稀ではない。
  もっとも、怪我を取り扱う整形外科ではなぜこのような症状が現れるのかについてまともな説明がなされたことはなかった。事故の賠償が済んでいないのでそのストレスによるものだと言って済まされてきたのである。そのため、交通事故被害者・患者は、この病気がいかに苦しいかと医師に訴えても相手にされず、「もう治っている」とか、ひどい場合には「金が欲しいんだろう」という暴言まで浴びせかけられてきた。捻挫ならそんなに何ヶ月も症状が残るということは理論上あり得ないからである。
  このようにして、むち打ち症は、詐病(病気でないのに病気であると偽ること)という疑いを常にまとった何か得体の知れない謎の疾病として取り扱われてきた。このため、最初のうちは通院治療のために自動車事故の保険から治療費が支払われるが、数ヶ月もするとそれ以上通う理由がないということで、治療費の支払いが打ち切られ、被害者は就労にも差し支える体でありながら、自分で金を工面して通院しなければならなくなり、場合によっては治療そのものが継続できなくなる危険すらあった。
  ところが、数年前に平塚にいた脳神経外科医の篠永正道医師が、これは脳脊髄液が硬膜から漏れ出る、いわゆる低髄液圧症候群ではないかという仮説を立て、その前提で診断・治療を試みるようになった。すると、果たして脳脊髄液が漏れていることが観察され、治療法であるブラッドパッチという患者自身の血液を背骨あたりから注入する方法が非常に有効であることが確認された。
  しかし、この理論はすぐには医学界に受け入れられることはなく、交通事故被害者である患者は、自分で保険料を支払っている健康保険さえ使うことができず、高額な治療費を全額で自分で負担しなければならないなど、二重の被害をこうむるという状況がしばらく続いていた。
  こうしたなかで、このほど2006年3月8日に厚生労働大臣が関係学会が前向きな検討を始めたということを明らかにし、厚労省・文科省がいずれも研究費補助金の支出に積極的であることを表明した。これは、国家レベルでこの理論を認める方向に動き出したということで、おそらく近いうちにきちんとした治療の標準が確立され、被害者・患者はうそつき呼ばわりをされないだけでなく、適切な診断と治療を受けられるようになるであろうし、保険会社も払い渋りをすることなく、早期に適切な治療を受けられるように情報提供したりすることになるであろう。
  低髄液症候群は、少し前にこの理論を提唱した篠永医師らのグループにより、脳脊髄液減少症という呼称を与えられ、この呼称もそろそろ定着しつつある。
  弁護士としては、この症例に対する認識を深め、早期に適切な治療を受けるように相談者に助言するだけでなく、ブラッドパッチを施行してもなお症状が軽快しない難治例について、その症状に応じた損害の評価を前提に訴訟を戦うことが求められるであろう。
 

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