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コラム・弁護士

 
   

私が心がけてきたこと(続き)

高橋 融

2007年12月

弁護士 ・ 高橋 融(四)
 今、弁護士の仕事と、コンピューターとは切っても切り離せないものになっている。 コンピューターが、情報を制御するようになって久しいが、私たち法律家の仕事もこの情報と関わっているから、その影響があるのは当然といえば当然だが、現在はここまでくるかと言うほどの影響を受けている。 60−70年代は、弁護士は原稿用紙や罫紙を使ってものを書くのが普通であった。裁判所に提出する書類を作るときは、事務員がこれを機械式のタイプでガラガラガッチャンと一字ずつ、カーボン紙を挟んだ用紙に打ち出し、作り上げるものであった。この頃は、一度打ち出したら訂正が厄介で、直したところに訂正印を押すため、用心しないと書面が紅梅の花盛りのようになった。1980年代はワープロ専用機ができて、これで書くようになって、裁判事務も変わったが、1990年代になるとワープロ専用機は廃れ、汎用のパソコンにワープロソフトを載せて使うように移行した。もっともこれは、筆記用具としてのコンピューター中のワードプロセッサー機能のことで、要するにペンに代えて、パソコンを使うだけであった。

(五)
 このような状況が、私にとって法律業務の電子化の幕開けであった。 私は、みんながワープロを使い始めたとき、これには乗らなかった。当時汎用パソコンApple(マック)の日本語ワープロEG-WORDでものを書いていたからである。やがて、汎用機の時代になると思っていたが、当時は、日本の汎用機メーカーのものは冴えないし、マイクロソフトはウィンドウズを出していないので、マックが一番進んでいたから、これを使った。だから、やがては、何とかなると思っていたとは言え、当時のはひどいものであった。マックは、英文を書くには便利だが、まだ日本語ワープロとして使うには、向かなかった。印刷すれば、ドットは大きくて粗いし、縦書きは下手であった。もっとも、他も、ウィンドウズが出るまで五十歩百歩、お粗末なものであった。 私は、それでもやがてコンピューターの時代が来る、その時に備えておこうと考え,これについて行くことを心がけていた。 インターネットを初めて経験したのは、1993年6月、世界人権大会がウィーンで開かれたとき、現地でそれが使われているのを見たのである。私が当時持っていたマックが、ウィーンでずらっと並んで動いていた。その前から、インターネットの話は聞いていたから、考え方はわかっていたが、使われている有様を見たのはそのときが初めてで、それが世界の情報を扱い、通信として使われている、これは衝撃であった。前に書いたファックスの話から、まだ5年は経ていない頃である。

(六)
 それからまだ15年経っていない。 しかし、その影響と変化の大きさはどうだろう。 仕事に対する影響だけ見ても、六法全書、判例集、官庁の種々の文書、会社の資料、外国の文献や歴史資料、地図などは、いながらにして見られるし、ほとんどの初歩的調査は、インターネットのグーグル検索で済むから、大幅に省力できる。そして、実際に行う調査は、見当をつけたところに出かけて行う専門的調査や、事件の実地調査になっている。 しかし、これは社会に与えた影響と比べると些細なものである。 一番大きいのは、あらゆることが発生してまもなく、否応なくすべての人に知れ渡ることが、最大の変化であろう。カメラはどこにでもあり、ケイタイも又誰でも持っている、テレビは誰もが見ているから、誰もことを隠し通すことができない。あらゆることの情報に、全ての人が(インターネットができるという限定がつくが)アクセスできるようになったということである。もちろん情報はただの素材にすぎず、それを適切に分析・解釈しなければ意味はないが、それでも、この分析・解釈さえ、インターネット上では無制限に飛び交っている。これに誰でもアクセスできるのである。もちろん官庁や大企業の情報独占はあり、メディアの責任も大きい。それにもかかわらず、個人の持つ役割、個人の発揮することのできる力は、かつてなく大きくなった。その力を、制御することが、かつてなく困難になっている。私は今、中国とつきあっているので、これをつくづく感じる。

(七)
 このような時代をどう見るか? 私の意見を言う前に、梅田望夫を紹介しよう。彼の「ウェブ進化論」、「ウェブ時代をゆく」(いずれもちくま新書で、800円ぐらい)を、読んでみることをお勧めする。彼は、「ウェブ時代をゆく」の冒頭で福沢諭吉の文明論之概略を引いて、現在は「恰も一身にして二生を経るが如く、一人にして両身あるが如し」の時代であると、その積極面をきわめて楽観的に捉える。 このような面があることは確かである。私は、その楽天的明るさと分析には同意する。 その上で私は、しかし、これを使う人間側が、これをコントロールして、「ウェブ時代」を安全に切り開くことができるところまで、「進化」しているか、と心配する。たとえば、今起こっている株式取引、サブプライムローンの全世界経済に与えている影響、核開発などコンピューターの発達とウェブ抜きには考えられないし、絶えず起こっているあらゆる情報の意図しない流出など、それをコントロールするのは人間側である。今、このような技術的な発展に、それを作ってしまった人間が追いついてないと思わないではいられない。 もっとも、これはあらゆる技術的進歩について言われてきたことでもあるから、気にしなくてもよいのかも知れない。私は、法律や法的技術万能論者ではないが、法律や法的技術がこれらの問題点を、フォローし、コントロールするための重要な人間側の技術であると思っているが、これが科学技術の進歩に追いついていけるか否か、大変だと思う。 私は、科学技術の進歩をバカにせず、これにできるだけ追いつくように心がけてきた。その結果、現在でもみんなに支えられて、コンピューターを使っている。 大きく見えるこれまでに起きてきた変化さえ、これから矢継ぎ早に起きる変化と比べれば、ごく初歩的なものだろう。このことについては、今の時期を、しばらく経って振り返ったときに、分かるのであろうが、深い文明論的、哲学的な思考を必要としている大変革の時代であるにちがいない。そう思うこの頃である。
 

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