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コラム・弁護士

 
   

イギリスたより 〜刑事裁判を傍聴して〜

師岡 康子

2008年8月


 イギリスに来て、ロンドンとチェスターで刑事裁判を傍聴する機会があり、日本と比較することができて面白かった。まだ来て1ヶ月半ほどなので、誤解もあるかもしれないが、感想を記してみよう。

 まず、ロンドンでは偶然にも15人もの法廷弁護士(バリスター。法廷で当事者を代理して発言できる弁護士)と10人の事務弁護士(ソリシター。法廷での発言以外の業務ができる弁護士)からなる大弁護団の集団殺人容疑事件を傍聴することができた。

 一番印象的だったのは、何と言ってもカツラである。法廷で、裁判官、検察官はもちろん、法廷弁護士まで、白くて長い、巻き毛のモーツアルトやヘンデルのようなカツラをかぶり、黒いガウンを着ていて、まるで、中世の劇でもみているようだった。17世紀からの慣習で、何と着用が義務付けられている。14世紀からイギリスの貴族社会ではじまったカツラ着用の習慣が持ち込まれたそうで、法曹が特権層だったことの名残だろう。無駄で業務に邪魔で不合理なだけでなく、弁護士が社会正義―平等な社会を実現する任務をもっている(日本の「弁護士法」1条)との観点からすると、不適切な制度だと思う。たとえば、刑事法廷で、弁護士は被告人の権利を擁護して検察官と争っているはずなのに、あれでは、法曹三者は特別のグループ、仲間であって、被告人から見たら弁護士も、自分の味方というよりも、自分とは別世界の人たちに見えるのではないだろうか。見かけで自分たちを他と区別し、権威付けようとしているのであれば、率直に言って、滑稽とすら思える。イギリスでも10数年ほど前から議論があり、民事裁判でのカツラの着用義務はちょうど今年から廃止されたそうである。ただし、主な廃止理由は、裁判官にはこれまで公費で一人40万円ほどのカツラを配給していたので、経費削減とのことだそうだ。イギリスの弁護士たちが、どのように考えているのか、今後、機会をみつけて聞いてみたい。なお、ぜひそのカツラ姿をお見せしたかったのだが、法廷では日本と同様、写真撮影は禁止されていて、傍聴席に入る前に厳しい荷物チェックがあり、撮影できなかったので、ご容赦いただきたい。ちなみに、傍聴席で居眠りしはじめた人がいたが、どこかに監視カメラがあるようで、すぐに係官が飛んできて、退場させられていた。

 法廷内の配置は日本とはかなり違っていた。中央奥のやや高いところに裁判官席があり、そのすぐ前に書記官・速記官席があるのは同様だが、その前に、まるで大学の小教室のように、裁判官のほうを向いて、長机が数列並べられている。裁判官から見て最前列の右側が検察官の席で、左側前列から法廷弁護士が座り、事務弁護士は法廷弁護士の後列に座っている。前述のように、検察官・弁護士は同じ格好をしているので、最初、どちらが検察官かわからなかったほどである。そして、傍聴席は、2階席にあり、上から法廷全体を見ることができる。おかげで、15人の法廷弁護団の1人が弁論中に携帯電話のメールをチェックし、パソコンの画面上でゲームまでやっているのまで目撃してしまった。

 ロンドンの法廷弁護士弁護団は全員男性だったので、女性弁護士をみたいと思っていたところ、チェスターでは3人の女性法廷弁護士の仕事を見ることができた。女性弁護士の割合は増えてきているが、司法界は保守的で壁はまだ厚く、たとえば、商業関係弁護士トップ50のうち、女性は1人しかいないそうである(タイムズ、2008年7月17日)。この記事には、女性弁護士の話として、1960年代に彼女が司法研修所に入った当時、著名なリベラル派の弁護士が講演をして、「ロシアで多くの女性弁護士に会ったが、攻撃的で男のようで恐ろしかった。女性は法廷弁護士になるべきではなく、事務弁護士のほうが向いている」と言ったとの話が載っていた。日本でも、1960年代に司法研修所の裁判官の教官が、「女性は司法界に進むべきではない」と発言して大問題になったことを思い出し、同様の圧力に、イギリスでも女性たちは戦ってきたのだなあ、と感慨深かった。

 イギリスの法曹界、法制度の日本との共通性、相違点について、今後も機会があればご報告していきたい。  

 

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