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コラム・弁護士

 
   

「ダークサイド」に落ちた人物

穂積剛

2021年1月


弁護士 ・ 穂積 剛

1. ウソを吐く当事者たち  

長いこと弁護士稼業をしていれば、ウソをつく相手方や証人には何度も遭遇することになる。

DV事案での配偶者(たいていの場合は夫である男性。しかし妻である女性であることも珍しくない)は、自分にとって都合のよいことばかりを述べる嘘つきであることが非常に多い。

労働事件での会社側の証人の場合なども、ウソをつくことがとても多い。会社内での立場上、本当のことを言うことができないからだ。

しかしそうした場合でも多くのウソつきたちは、実際には自らが虚偽を述べることに対して、良心の呵責を感じていることがほとんどだ。だから彼ら彼女らは、まったくのでっち上げ、事実無根を創り出すということはあまりない。

むしろ多いのは、事実関係としては確かに類似した出来事があったのだが、その内容を自分に都合のいいように歪曲して認識しているケースだ。

 

2. DV夫の「認知の歪み」  

こうした場合にDV夫は、自分にとって都合の悪い経緯について無視してなかったことにしたり、自分がやったことを都合よく矮小化したり、逆に妻がやったことを針小棒大にしたりあるいは悪意に解釈したりするなどして、最終的には「俺を怒らせるようなことをしたお前が悪い」と本気で信じ込んでいる。こうして、物理的あるいは精神的暴力を振るうことを正当化し、自分のやったことを妻に責任転嫁するのである。

社会的にはそれなりの立場にあるはずの夫たちが、このように根底から歪んだ認知を正当化している事例を、これまで何度も目にしてきた。この程度に自分を客観視することもできなくて、よく社会で仕事ができているなと感心させられるほどだ。

 

3. 立場上やむなく吐く「ウソ」 

労働事件の場合には、上から言われて仕方なく出廷してきている証人(原告の上司)がウソをつく。

彼らの証言も認知が歪んでいることが多いが、上からの命令で言われたことを証言するしかないという自分の立場がわかっているので、割り切った印象を受けることが多い。反対尋問で証言のいい加減さを突かれても、《いちおうここまでは証言したので義理を果たしました。結果がどうなっても私は知りません》といった開き直りの態度を感じるのである。これも逆にいえば、自分の良心の呵責を会社に対する義理を果たすという形で正当化している心理の表れのように思われる。

 

4.良心の呵責に対する回避 

いずれのケースでも認知が歪んでいるという点では同じであり、述べている出来事自体はまったくの創作ではないという点でも共通している。事実を自分に都合よく歪めて認知することで、本当に事実関係がそのとおりだったと信じ込んでいる。だからそこに良心の呵責はない。自分こそ正しい、仕方のないことだったのだと、歪んだ認知ではあるけれども本当に思い込んでしまっているのである。

ところが世の中には、こうした良心の呵責をまったく感じない人物がいる。類似した出来事どころではなく、完全なる創作を法廷で平然と述べる人間がいるのである。

 

5. 不自然な事件の経緯 

事件としては、極めて不自然な経緯をたどった事案だった。あるIT開発を巡る労働関係の事件でのことだ。

この事件では相手方の主張内容が、ことごとく変遷を重ねてきていた。

事案に関する経緯を示す証拠をもとにこちらが主張を構成していくと、相手方は技術的にあり得ない反論を繰り返してくる。その反論が技術的に考えられないことを根拠を付して指摘しても、さらに別のあり得ない主張を重ね合わせて言い訳を繰り返す。まさに「ああ言えばこう言う」を絵に描いて額に入れたような展開をたどった。

 

6. ITスキルが欠如した裁判所 

しかも問題は、裁判所にITスキルが欠如しているため、相手方の主張がいかに技術的におかしいかを、裁判所がまるでわかっていないらしいことだった。

これは以前に東京地裁の知的財産部で事件をやったときにも嫌というほど体験した。IT技術的には確かに相当程度のスキルを要する事件ではあったが、裁判所にまるでITスキルがないので、どんなにわかりやすく努力して主張を展開しても、基本的な部分で理解が及ばないのだった。

聞いた話では渉外的なIT関連の紛争は、香港の裁判所を管轄合意しておくことが多いのだという。日本の裁判所ではスキルが不足していて適切かつ迅速な判断ができないので、それができる他国の裁判所を利用するのだそうだ。

最近はIT企業出身の弁護士も増えてきているので、裁判所はこういう弁護士を任官させて知財関連の事件を担当させるべきではないか。

 

7. まったくの虚構の創作 

不自然な経過をたどったこの事件も、裁判所にもっとスキルがあったならば、早い段階で主張内容の不自然さに裁判所が気付いて、和解などにより早期解決がはかられていたことだろう。しかし裁判所にそのスキルがなかったため、この事件は長期の主張のやりとりを経た後に、証拠調べの局面に入ることとなった。

しかも問題だったのは、そのウソの内容である。ここで問題の人物が吐いているウソは、前述したように「事実の認知を歪めた」という次元のものではなかった。そうではなく、まったく存在していない架空の事実を強弁するという内容だった。完全なデタラメであり、まったくの虚構であった。

いくら何でも当然その人物は、自分が完全なウソを吐いていることを自覚していたはずだ。だとすれば、自分の認知をちょっと歪めて良心の呵責を回避するという手段をとることなどできない。

 

8.「ウソ」への弁護士の加担 

しかしその人物のことを知っているこちらの関係者は、その人が非常に柔和な気の弱い人であり、とてもウソを吐くようなタイプには思えないと言っていた。それなのにどうしてこの人物は、これほどの虚偽を良心の呵責を覚えず主張することができるのか。実際に何が起こっているのかわからず、とても混乱させられた。

私は事件をやりながら、常識的に考えてここまであり得ない主張を相手方が繰り返しているのは、相手方の弁護士が都合のよいウソをその人に言わせているからだろうと予測していた。わかっていて訴訟関係者にまったくの虚構を法廷で証言させるというのは極めて悪質なやり方であり、この弁護士の責任を追及すべきではないかと思っていた。尋問を実施すればそのウソが明らかとなり、その後に相手方の弁護士の責任を問わなければならなくなる展開を予想していた。こうして、尋問期日を迎えたのである。

 

9. 裏切られた予測 

事前に徹底的な準備を尽くしてきていたので、反対尋問は大成功に終わった。私が事前に用意していた反対尋問のトラップに、その人物はことごとくハマって矛盾した証言を繰り返した。

そこまでは想定どおりだったが、実際には私は非常に驚かされた。なぜならその人物は、まったくの虚構、100%創作のウソを、平然と最後まで言い続けたからだった。

相手方の弁護士が、わかっていてその人にウソを言わせていたのではないかという私の事前の予測は、完全に外れた。その人物は自分の責任を免れるために、真っ赤なウソを相手方の弁護士にも伝え続けていたらしいことがわかった。相手方の弁護士はそのウソを見抜くことができず、その人物が説明するままに主張を組み立ててきただけだったようだ。

 

10. 暗黒面に落ちた人物 

事実の認知を歪めて良心の呵責を免れるのではなく、まったくの虚構の出来事を法廷の場で平然と述べるその精神力に、本当に驚愕させられた。

この様子を見ていた相代理人の弁護士は、「生気のない顔、抑揚のない表情と態度、ダークサイドに落ちた人間だ」と表現した。

まさにダークサイドを見た。ウソを吐くことに何の良心の呵責もない、暗黒面に落ちた人物の姿だった。

 

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