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コラム・弁護士

 
   

モラハラDV夫からの脱出

穂積剛

2022年7月


弁護士 ・ 穂積 剛

1. DV夫事案との遭遇  

もう15年くらい前のことだっただろうか。
DV夫の事案に最初に遭遇したときに、私はとても驚かされる経験をした。

事案は、夫の精神的虐待に耐えかねて子供を連れて逃げ出してきた妻からの依頼だった。物理的な暴力まではない事案だった。
妻は少しでも早く夫と離婚することを希望していたが、逆に夫が家庭裁判所に夫婦関係円満調整の調停を申し立てていた。
この調停で夫から、別れたくない理由が書かれた書面が出されたのだが、それが驚愕すべき内容だったのだ。

 

2. 驚愕すべき「書面」内容 

その書面には、自分の妻にどれほど問題があって自分が迷惑を被ってきたのか、それに対する自分の対応がどれほど正しいもので自分が努力を尽くしてきたのかについて、膨大な記述がされてあったのだ。そのうえでこの書面では、自分の妻に対して「精神の異常」、「病的な被害妄想」、「卑劣な犯罪」などと口を極めて罵倒していたのである。

これを一つ一つを取り上げて反論することを考えると、ウンザリさせられてしまうほどの分量と内容だった。案の定、夫ほど物事を理路整然と説明することのできない妻は、これを見て尻込みしてしまった。

 

3. 相手を「支配」するための罵倒 

しかしよく考えてみると、夫のこの主張は明らかに不自然だと思った。そんなに問題のある妻だったなら、それこそとっとと別れて夫は自分の人生をやり直せばいいではないか。ところがこの夫は、円満調整を求める「理由」として妻の問題点をひたすらあげつらい、人格攻撃をして罵倒していたのだ。

やがてこの夫とやりあっているうちに、この人物のやり口に私は少しずつ気が付くようになった。つまりこの夫は同居中から、常にこうしたやり方で妻を攻撃して精神的に虐待し続け、それによって自分が妻を支配するための材料として利用していたのだ。

 

4. 事実の「歪曲」と「隠蔽」 

夫が書面で主張している妻の問題点も、依頼者に細かく事情を聞いていくと、実際には事実を少しずつ歪曲して自分に都合のいいように改変し、あるいは自分にとって都合の悪い事実を矮小化したり隠蔽したりすることで自己正当化を図っていた。意識的か無意識なのかまでは断定できないが、これがこの人物の常套手段だとわかってきた。

疑うことを知らないお人好しだった妻は、こうした悪意あるやり方に気付くことができず、どんどん自分の精神を病むようになってしまっていた。
世の中にこのような悪意に満ちた人間がいることをこのとき初めて知って、私はその思考形態に心底驚かされたのである。

 

5. 面会交流に対する消極的反応 

妻が一緒に逃げ出してきた娘は当時小学生で、今度はその子に対する面会交流が問題となった。
普通であれば当然、面会交流を実施すべき事案だったろう。

しかし別居前から子供はこの父親に対して強い拒否反応を表明しており、子供自身が面会交流に消極的だった。
そのうえさらに別居後になって、この父親が子供に対してとんでもない仕打ちをしていたことが明らかになった。

 

6. 身分を偽っての接触 

当時にこの子は、子供向けのSNSのアカウントを持っていて、これに参加してよく遊んでいた。
SNSでは個人情報は出さないが、自らニックネームを付けてプロフィールを公表し、ネット上の友達とやりとりをして交流することができる。

このSNSで、同学年の小学生の男の子というプロフィールで、この子のアカウントに近づいてきた「友達」がいた。二人はネット上で何度かやりとりをしていたが、実はこの「友達」の正体が、別居中のこの父親であることが、娘にわかってしまったのである。この父親は自らの素性を偽って、SNSを利用して自分の子供に近づいてきたのだった。

 

7. 面会交流の絶対拒絶 

このことを知ってこの子は深く傷つき、それまで以上に父親のことを拒否するようになった。思春期の入口となる微妙な年齢であり、これは当然だったろう。
こうして娘は父親との面会を拒否して、絶対に会いたくないと強く拒絶した。

こんな状態で面会交流など実施できるはずがない。子供は家裁で実施予定だった試行面会も拒否し、その結果として夫は面会交流調停を取り下げることになった。

 

8. 「連れ去り糾弾団体」での活動 

すると今度はこの夫は、母親による子供を連れての別居が「子供の誘拐」だと主張する団体に加入して、その団体の幹部として活動するようになったのである。
この人物がこの団体のサイトで発表していた体験記を見てみると、母親の妨害によって自分が子供に会えなくなった、子供を連れ去ったうえでに面会交流まで妨害し続ける母親は許せない、などと完全に責任転嫁する主張をしていた。自分が娘に対して何をやったのかについては、完全にネグレクトしていた。このあまりの卑劣ぶりに、私は驚くよりも呆れ果ててしまった。

 

9. もっぱらFPICを利用する理由 

そしてこの体験があってから、私はこの手の団体のことをいっさい信用することができないようになった。
この手の団体が面会交流支援を謳っていることも多いのだが、私は一度も利用したことがない。
面会交流の支援機関として利用しているのは、もっぱらFPIC(公益社団法人家庭問題情報センター)だけにしている。DVやモラハラ問題について、必ずしもFPICに理解があるわけではない。しかし少なくとも、この夫のような卑劣な人間が入り込んでいる危険性は少ないと言えるからだ。

この事件はその後も紆余曲折があって、最終的には依頼者は無事にこの夫と縁を切ることができた。
犠牲となった娘は父親との接触を拒否し続け、現在ではもう立派な社会人になっているはずである。
それまでの常識とはあまりに掛け離れた非日常的な事件を担当したことは、私にとっても大きな勉強になった。

 

10. モラハラDV夫の一貫した「思考形態」 

現在では、モラハラDV夫の思考形態について、私は非常によく理解できるようになったと思う。
モラハラDV夫は、一見すると矛盾した言動を繰り返すことが実に多い。しかしその矛盾しているかのように見える言動は、相手に対して自分が優位に立とうとする手段、あるいは自分が相手を支配しようとする手段としての観点から見ると、非常に一貫していて実にスジの通っていることが多いと理解できる。

 

11. 繰り返されてきた「罵倒」 

つい先日も妻と別れたくないという夫から、妻とその家族を罵倒する内容の書面が出されてきた。
別れたくないのなら、パートナーがどうして自分と別れたいと決断するに至ったのかを客観的に自省し、自分に反省すべき点があれば率直に改善するための努力を尽くすのが常識的な判断である。別れたくないにも関わらず、どうしてそれとはまるっきり矛盾した言動をしてくるのか。
それは結局は、妻と家族を罵倒するという行為を、それまでも相手を支配する手段として利用することを繰り返してきたことの反映なのである。モラハラDV夫としては、実に一貫した言動を、別居の前後を問わず続けているだけに過ぎない。

この件は私に、約15年前に体験した最初の困惑した事案を、改めて思いださせることになった。

 

12. モラハラDV夫からの「脱出」 

ここではDV夫という表現を用いたが、こうした加害者は必ずしも男性に限られる訳ではない。
実際に私も過去に何度か、妻の側が夫を支配していた事案を担当したことがある。
ただ、モラハラ的な手法を用いるのはどうも、男性側の方が多いような気がするが、統計的な数字をもって判断できるほどの材料を持ち合わせているわけではない。

いずれにせよ、家庭内においてパートナーを対等な関係とするのではなく、これを支配・服従の関係にしようとするところからモラハラDVが始まる。どうしてこのような倒錯した人間関係をモラハラDV夫が希求したがるのかは、私にとって今でも謎のままである。しかし私の経験上でいえば、この傾向の人物が改心して、対等平等な関係を構築し直すことができるに至ることは、まずあり得ない。
対処法は、とにかく逃げることだけだ。
モラハラDV夫の被害者の方に対しては、問題点を理解している専門家の援助のもと、少しでも早く「脱出」することを強くお勧めする。

 

 

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