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コラム・弁護士

 
   

「痛み」の損害賠償

後藤 富士子

2023年11月

弁護士 ・ 後藤 富士子

1.交通事故の損害賠償

弁護士必携とされる「赤い本」、正式名称は『民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準』という。この本では、賠償額算定の枠組が示されている。ここでは「慰謝料」について取り上げる。

「慰謝料」には、大別すると、@死亡、A傷害、B後遺症の3種類があるが、被害者本人の「痛み」に限れば、AとBになる。傷害が治癒すれば、Aのみ。後遺症が残れば、症状固定まではA、症状固定後はBになる。そして、Aについては、原則として入通院期間を基礎とする慰謝料額の表が適用される。Bでは、後遺障害の等級が1級から14級まであり、その等級によって基準的な慰謝料額が決まっている。なお、後遺障害の等級は、「逸失利益」を算定するための指標で、「労働能力喪失率」と対応している。1級なら100%、4級なら92%、・・・・、14級は5%である。慰謝料額は、1級2800万円、・・14級110万円である。「休業損害」や「逸失利益」は、被害者の収入によって金額が変わるが、慰謝料は、その人の収入に左右されないという点で、平等・公平とされている。

2.採血時の神経損傷について

ありふれた定期健診。血液検査で採血時に末梢神経損傷が起きて「痛み」が残ったケースについて、どう考えるべきか?ここでは、便宜上、過失があると前提する。

まず、採血時の「神経損傷」の定義は、採血時に穿刺した針によって穿刺部位付近の神経が損傷されること。問題となるのは、採血後に一定の時間が経過した後(通常は翌日以降)も採血部位の近くに存在する神経の支配領域に疼痛、感覚異常、運動機能異常などの神経損傷による症状が残存する場合である。この「痛み」は「神経障害性痛」とも呼ばれているが、150万人に1人ぐらいに起きる難治性の複合性局所疼痛症候群を除けば、3万回穿刺に1回ぐらいの頻度で起きていると言われている。

次に、「神経障害性痛」の診断基準。1番目は、電撃痛、ビリッと電気が走るといった最初の放散痛があるか否か。あれば、2番目に、普通の痛み止めが効かない、いわゆる消炎鎮痛薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が全然効かないというときに強く疑わなければいけない。3番目が、神経の障害なので、何らかの感覚障害が出てくるが、血管穿刺部位あるいはより抹消側の皮膚を触れた際に感覚異常が生じること。例えばその感覚が低下したり、敏感になってしまったり、さわっただけなのに痛みとして感じてしまう異常知覚が出現したりする。これらの3つの特徴を参考にして、「神経障害性痛」と診断して、治療を開始する。なお、よほど重症でないかぎり、運動麻痺は出ない。

3.具体的事例で考えると

整形外科での治療が開始された当時、消炎鎮痛薬が効かず、ビタミンB12の投与以外に治療法がないと考えられていた。通院3年間で実治療日数は14日。症状固定により治療は終了したが、「痛み」は残った。通院だけでは「痛み」が我慢できず、週1回ゲルマニウム温浴に通ったが、医師の紹介状はもらえなかったので、「治療費」として認められない。

「赤い本」に従って考えると、どうにもならない。私なりに考えると、結局、本人にとっての「被害回復」は「痛み」からの解放であり、通院治療もゲルマニウム温浴も、そのための方法に過ぎない。また、厳密にいえば労働能力低下は否めないが、前記の14級にのるとは加害者側は認めない。そうすると、被害に見合う賠償金を得るために訴訟をしなければならない。でも、訴訟をやって勝てるか否か、勝てなければ自分が委任した弁護士費用が持ち出しになるだけ。そうなると、被害者本人は「泣き寝入り」するほかないのかと考える。しかし、弁護士の目には「法の正義」に反すると見える。

私が行き着いたのは、「赤い本」で長年にわたって蓄積された賠償額算定の枠組が、実情とは乖離した「フィクション」になっているのではないか?ということである。被害者にしてみれば、金銭が欲しいわけではなく、「元の体に戻せ」という「原状回復」であろう。しかし、それが不可能だから金銭賠償になる。そうすると、「金銭賠償」の体系が「原状回復」とかけ離れているということではないか。

一方、「原状回復」を追求すると、医療の進展が大きく貢献することがわかる。近年、神経障害性痛に効く薬としてプレガバリンが保険収載されたことにより、消炎鎮痛薬とともに併用することが推奨されている。また、採血時の被害を防止ないし減少させるには、採血器具などの改良も貢献できる。

そう考えると、「金銭賠償」においても、単に「赤い本」だけに依存するのではなく、「原状回復」を意識しながら、被害者が納得できる解決を図ることが望まれる。そして、そこにこそ司法の存在意義が発揮されるのではなかろうか。

 

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