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コラム・弁護士

 
   

睡眠を削るな!

穂積 剛

2009年7月


弁護士 ・ 穂積 剛

 日本IBMのSEをやっていた1991年のころ、あるプロジェクトの開発に携わった。プロジェクトのカットオーバーに向けて残業時間が増えていき、半年くらいは100時間を超える状態となった。カットオーバーの前月は残業だけで200時間を超え、カットオーバーした月の残業はついに300時間を突破した。

 日本IBMは残業代を支払わない会社だったので、私は自分の勤務時間を克明に手帳に記録しておいた。組織率1%以下のJMIU日本IBM支部の組合員だった私は、組合を通じて未払残業代を請求し、組合のおかげで最終的には残業代を全額払わせた。

 通常、過労死のボーダーラインは月80時間以上の残業が2〜6ヶ月以上続くことと言われている。これは、厚生労働省が労災認定する場合に、脳疾患・心臓疾患を発症させる血管病変が生じる可能性が高くなり、業務との関連が強いと判断される残業時間の基準である。月100時間を超える残業があった場合には、それが1ヶ月だけでも業務起因性が強いとされる。

 根拠となるのは厚労省による疫学的研究で、一般に睡眠が6時間取れている人は睡眠不足による疲労の蓄積はないが、6時間を切る状態が2〜6ヶ月続くと疲労が蓄積して血管病変を発症しやすくなり、5時間を切るようだと1ヶ月でも疲労の蓄積が見られるようになる。そして睡眠時間の長さは残業時間の長さと関連しており、残業が月に80時間を超えると睡眠は6時間を切るくらいになり、残業が100時間を超えると睡眠が5時間を切るようになるという。

 そのため、残業時間の長さから睡眠時間を推測し、睡眠時間から血管病変の業務起因性を判断することができる。

 100時間を半年以上、200時間と300時間の残業を1ヶ月ずつ連続してやっていた私は、まさに「過労死のボーダー」にいたことになる。いま考えても、私と同じような状況におかれていたメンバーが多数いたあのプロジェクトにおいて、よく死人が出なかったと思う。

 月300時間残業というのは、まさに凄まじい世界だった。職場に泊まり込み、48時間くらいぶっ続けで仕事する。そして4時間寝たら起こしてくれと頼んで短時間の睡眠をむさぼる。短時間で起こされても、最初は自分がどこにいるのか、何をしていたのか見当識を失ってしまう。起きたらそのあとはまたぶっ続けで24時間以上仕事する。そんな調子だ。もちろん家に帰っている時間などほとんどないし、休みなどもまったくなかった。睡眠時間が5時間どころの騒ぎではない。

 若かったこともあるだろうが、それでもあの頃はそんな状態でも仕事自体はできていた。肉体的には辛かったが、だから仕事ができないと思ったことはない。コンピューターが好きだったことも一因だろう。モニターを見つめてデバッグしたりソースを追っかけたりテストをしたりあれこれ考えたりすることは、それなりに楽しかった。コンピューターという論理の世界に入って、その論理の完全性を追求するという作業が苦ではなかった。だってある意味でデバッグとは推理小説での犯人探しのようなものだし、システムを構築するというのは創造性のある仕事である。

 それから18年ほども過ぎて、何の因果か弁護士という仕事をやることになった。弁護士を仕事に選んでいなければ、今でも私はSEをやっていると思うが、あの頃とは大きく違うと思うことがある。それは、この仕事は睡眠を削ってはできないということだ。

 SEの仕事とまったく異なり、弁護士の仕事はモニターを見つめつつ論理の世界だけにいることではできない。弁護士の仕事は、何よりもまず「事実」に基づかなくてはならない。そのためには時系列を整理して、前後関係を考え事実の整理整頓をする必要がある。ところがそのためには、大量の資料や証拠書類を参照しなければならない。その作業が、眠くなってくると辛くて仕方なくなる。資料を探すのが億劫になってしまう。

 ところがSEの仕事の方は、こうした作業がない。あるのはモニターと論理だけ、つまり自分の頭の中の世界だけだった。少なくとも当時は。

 現在は、弁護士の仕事をするためには睡眠を削ってはならないというのが私の信条になっている。

 第一に、睡眠不足で仕事をするのは非常に辛い。第二に、同じ仕事をするにも睡眠不足だと効率が悪く非常に時間がかかる。そのため苦痛の時間がより長くなる。第三に、そうやって辛い時間を長くかけて仕事を完成させても、たいがいの場合仕事の質があまりよくない。

 ところがきちんと睡眠を取ったうえで同じ仕事をやったなら、辛さはなく、時間も短く済み、しかも質も良くなる。だとすれば、睡眠を削って仕事をする意味などない。

 そのため私は、できる限り最低限の睡眠だけは確保するようにしている。実際にも厚労省の研究どおり、6時間までなら何とか体調を維持できる。しかし5時間くらいになると、効率が非常に悪くなるのを感じることが多い。

 そういう私でも、やっぱりほとんど苦痛を感じないでできてしまう仕事がある。それは、エクセルでスプレッドシートを作っているときだ。残業代の計算などでときに複雑な関数を使って組み上げることがあるが、そういうことを考えるのはほとんど苦にならない。先日は、書記官研修所完全準拠方式の自動利息計算シートを自分で作成してみた。とても楽しかった。婚姻費用と養育費計算のための算定表の自動計算シートも自分で作ってみた。これも面白かった。

 こういう私だから、疲れを感じているときは、ほかの仕事を後回しにしてエクセルに向かって仕事をしてしまうことがある。そんなとき、やっぱり私は弁護士というよりもSEなのかも知れないと思ってしまう。仕事を選び間違えたかなあ。

 

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